君の行方はワカラズ。

 物語に、終わりはつきものだと、僕は思う。
 恋と呼ばれるものにも、終わりはつきものだと、僕はそう思う。
 ただ、僕の物語ができるだけ、終わってほしくない。
 君への想いも、終わらせるつもりなんてない。
 そう思わざるを得ない存在なんだ。
 どうか、気づいてくれないかな。

そんなことを考えていたある日の晩のことだった。

「あーあ。本当に暇だなあ。早く、みんなのところに行きたいな。」
沖田は蘭方医の松本先生のほうに熱い視線を送りながらつぶやく。
「そうだな、早く皆のところに行きたいのならば、今しっかりと薬を飲んで、早く治すことだな。」
「…はーい。」
少し不服そうにしながらも沖田は素直に寝ようとしていた。そして、沖田が寝たと思った松本先生は沖田のいる部屋から出ていく。
「ふぅ…やっと行ったか。」
沖田は咳が出そうになるが、それを我慢しながら、そっと起き上がった。
「今のうち、だね。」
そうつぶやき、用意されていた洋装に着替える。そして、少し部屋の中をうろついていたときであった。
彼と、彼女が来た。

「あれ、土方さん。それに、千鶴ちゃん。」
沖田のところに、来るはずもないと思っていた土方と千鶴が来たのだ。
しばらくの間話をしていたのではあるが、土方の顔を見ると、どうもそれも今生の別れのようであった。
「あ、千鶴ちゃん。ちょっと待って。」
話し終えた土方が早々に立ち去ろうとしているなか、その後ろをついていこうとしていた千鶴を沖田は呼び止める。
「本当に、君は面白い子だよね。」
「えっ…。ど、どうしてですか?」
いきなり、思いがけぬ言葉をかけられて千鶴は戸惑っている様子であった。
「だって…君、話題ごとにいちいち反応するからさ、土方さんがどれだけの嘘をついているかだとかが、よくわかるよ。まあ、そんなの見なくても、わかるときはわかるんだけどね。」
「え…。」
「君が屯所に連れて来られたときも、本当にいちいち反応してて…とっても面白かったよ。」
「沖田さん…本当にひどいです…。」
少ししゅんとなりながら言う千鶴を見て、沖田は少し微笑む。 「ははは、ほんと、ひどいよね。でも、嘘をついてる土方さんも、酷いよなあ。」
「それは…。」
「大丈夫。もうそんなことを責めるつもりは、ないよ。ただ…」 沖田は千鶴を、やわらかく抱く。
「君を取られたことに関しては、少しだけ責めたいな。」
「え…!?」
千鶴は沖田の腕の中で少し焦る。
「僕はね。」
「君のこと、好きだったよ。本当に君って、面白いし。けど、ずっと土方さんと一緒にいるから、たまに面白くなかったかな。ただ…」
沖田は少しさみしそうな顔をする。
「沖田さん…。」
「ただね。今の彼には君が、必要だと思うんだ。土方さんは性格も悪いし、本音を言うのも下手だし。傍にいると間違いなく疲れると思うけど……傍にいる間だけでいいから、あの人の話を聞いてあげて。」
沖田は少し仕方なさそうに苦笑しながら、そう言った。
「はい…。」
千鶴は、そう言うしかなかった。
「あーあ、本当に、残念だなあ。こんなに良い子が取られちゃうなんて。土方さんにはもったいないや。」
少し大きめの声で、そう呟く。
「お、沖田さん。そんな大きな声で言わなくても…!」
千鶴はあたふたしながらそう言っていた。
「あはは。ほんと、君って面白いよね。」
沖田はそう言って、千鶴の頬に触れる。
「でも、もう大丈夫。僕も、言いたいことは全部言ったし。だから、彼を支えてあげて。残念ながら僕は君を守ってあげることもできないだろうからさ。その分、あの人に守ってもらって。どうか、幸せに。」
そう言いながら、沖田は本当に愛おしそうに千鶴を見る。
「沖田さん…ありがとう、ございます…!」
千鶴は少し目を潤ませながら、そう言う。精一杯頭を下げた。
「そんな、頭なんて下げなくてもいいのに。土方さんのもとへ、行ってあげて。話を聞いてくれて、ありがとう。じゃあ、またね。」
「はい。また…!お大事に、してくださいね。」
そう言って、千鶴は部屋を出る。
すると、すぐ傍に土方がいた。

「ったく、総司のやつ…。さ、いくぞ。」
土方は、少し顔を赤らめながら千鶴のほうをあえてむかず、そう言った。
「はい!」
千鶴はそう元気よく返事をし、土方の後ろをついていく。
そうして、江戸を出て、北上しようという一歩が前進されたのであった。

それからしばらくのこと。
仙台にまで行って沖田は療養することになったのだ。
しかし、その頃にはもう、起き上がることも出来ない状態であった。
「ああ、今、土方さんたちは、どこにいるんだろうなあ。」
「千鶴ちゃん、ちゃんと土方さんを支えてくれてるかな。」
「ちょっと、眠くなってきたな。少し、休もうかな…。」
そう呟きながら、目を閉じる際、土方の隣に千鶴が歩いているところがふと見えたのだ。
「良かった。ちゃんと、一緒に居る…。なんだ、幸せそうじゃない。ちょっと、残念だな。でも……」

それからしばらくしてのことだった。
土方と千鶴の元に、沖田が永眠したという情報が来たのは。




  By.TSUKASA.
  2011. 03.20

inserted by FC2 system